2009年01月17日

日向 第二章-7-

「買ったあ〜」
真乃が両手に袋をたくさん抱えて、満足そうににっこりした。
「あ!ねぇ、あっちも行ってみよ!可愛いのありそう!」
そう言って今度は真弓が違う方に走って行った。
「ちょっと!その前に、コインロッカーに荷物置いてこないと重いよ?」
「わかってる!」
そう言って走っていった店のすぐ横の通りにあるコインロッカーに荷物を入れてさっさと店のなかに入って行った。
「ほんと、まゆって買い物になると子供みたい」
「いつもこうなの?」
「え?あ、そういえば、ひなと買物ってあんまりしたこと無かったね」
真乃は、少し合わないうちに変わった。
「大人になりたい。大人っぽい服を着たい」そう、真乃は言っていたけど、昔に比べれば、彼女はずいぶんと大人になった。雰囲気が落ち着いてきたし、髪と背も伸びてしっかりしてきた気がする。まぁ、昔から根っこの部分はしっかりしてたけど。
「ひな?早くいこ?」
「うん」
なんだか、違う人といるような違和感を覚えながら私は頷いた。

***

「疲れたあ」
“充実”を言葉にして、真乃が人のベッドに倒れこむ。
「真乃、ジャンバー投げないで。もぉ、そういうとこは変わってないのね」
「そうなのよ。だからひなが引っ越した直後は大変だったのよ?」
まゆが私に苦労話を聞かせ始めたが、私だって、苦労したのだ。
新しい大学は勿論、近所付き合いだ、成績だ、親だ。
極め付けに、この2人からの、電話。
“あれはどこ?これはなに?どうつかうの?料理は?部屋は?どうすればいい?”
毎日のようにかかってくる電話に答えて…
最近はもう慣れたのかめっきり掛かってこなくなったが、まあ、さすがに、慣れたのだろう。
「違う違う。諦めただけ。だから今家なんて荒れ放題よ。私達も自室には構ってるけれど、他はね…改めてひながどれだけのことをしていたのか、分かったわ。」
まゆの語尾と重なるように、ニャーという声が重なった。
「「え?」」
2人が顔を合わせる。
次に少し耳を突く嫌な金属を擦る音が続く。
私はその場から立ち上がって玄関に向かった。
ドアを軽く開けるとアメリカンショートヘアの猫が隙間からすべるようにして入ってきた。
「お帰り。昨日は何処行ってたの?」
私の言葉が終わると答えるようにまた鳴いた。
「お腹空いたの?」
また、鳴く。
「ちょっと、待ってて」
私はキッチンに入り、猫のえさ箱を取り出した。
「ひな?」
「あ、言ってなかった?私こっちに着てから猫を飼い始めたの。初めは完全室内飼いだったけど、どうやって脱走したのかいつの間にか外に出ててね。それから時々散歩に出かけるようになったのよ。」
ニャーと、私を急かすように私の言葉を遮った。
「はいはい」
えさ置き場においてやると、待ってましたと言わんばかりの勢いで食べ始める。
「太るわよ?」
頭をなでながらそっと呟くが、そんなこと気にもしないで、食べ続ける。
「なんか、意外」
「なにが?」
真乃の呟きに私は疑問を感じた。
「ひなに、猫。可愛いけど…意外」
「そう?私は似合ってると思うけど」
今度はまゆが話し始める。
「ひなって、私、どっちかって言うと猫のイメージだったし」
posted by 清水 まこと at 15:07| Comment(0) | 日向 第二章 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年12月17日

消えない記憶 第二章―05

慣れないことを、するものじゃない。
もうふ…ゆきもすっかりとその気になっていて、私が「藤森」というと訂正するようになった。
「ねぇ、美紀?」
廊下で、私と美紀と・・・いつもの4人でいる時、なんとなく周りの視線を感じた。
「なんか私たち、すっごい目立ってない?」
「え?そう?」
美紀はなんでもない顔でそう言った。
そういえば私たちが4人が、屋上以外でそろうのは初めてだった。
なぜかいつも2つに分かれている。あの2人と人前で話すことを美紀はしなかった。バレルのが、怖いんだろうか?
まぁ、それを理解して深くは突っ込まなかったけど・・・
「気にしすぎじゃない?」
さらっと冬樹がいう
「あ、そういえばさあ・・・やっぱり名前って呼びにくいからあだなっていうか、ニックネームとかでもいい?」
私が言うと、美紀がさっそく反応した。
「え!?梓までそんなこというの!?」
「いや、そういうわけじゃなくて・・・」
いやそういうわけなんだけど・・・
「そうじゃなくてね、美紀。名前で呼ぶよりニックネームとかで呼んだほうがより親密に感じない?私はその方がいいような気がするんだけど・・・」
美紀は少し考えるそぶりをした後に「そうだね!」と笑った。
どうやらうまく騙せたらしい。
「梓・・・」
私の隣に立っている男は騙されてくれなかったらしく、私はじっと見ていた。
「なに?」
なんでもない顔をする
「操作しただろ」
「なにを?」
どぼけると、しょうがなさそうに言った。
「で、俺のことなんて呼ぶきだよ?」
「ん?冬樹は・・・『ゆき』ふゆきだから。七海は・・・『なみ』でいいんじゃない?なつみだし」
「『なつ』にはならないんだ」
「だって呼びにくいでしょう?」
「俺はいやだからな!」
会話に割り込んできたのは『なみ』だった。
「いいじゃない。それに私があなたのことをなんて呼ぼうが私の勝手。反応するしないもあなたの勝手」
そういうと珍しくあっさりと引いた。
「じゃあ私もそう呼ぼうかな!」
また、美紀が子供らしい可愛い笑顔を見せた。
posted by 清水 まこと at 14:14| Comment(0) | 消えない記憶 第二章 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年12月03日

消えない記憶 第二章―04

あれから、私達は美紀の押しに負けて名前で呼び合うことになった。
西村・・・いや、七海以外は。
七海だけは私のことをまだ「伊吹」と呼ぶ。
「ねぇ、七海ぃ」
「しつこい!」
未だに美紀だけは七海に言いきかせていた。
「いいじゃんかぁ、減るもんじゃなし」
「なんで俺があいつを名前で呼ばなきゃいけないんだよ!」
「そんな事にまで理由がいるならこの世は理由だらけよ」
大真面目な顔で美紀が言っている。
あの言葉をどこで知ったの?―と聞いてみると、正直に彼女は「インターネットで知って気に入ってるの」とにっこりと笑って答えた。
「でも、気に入ってるからってそんなに頻繁に使わなくても・・・」
小声で言ったつもりがすぐ机を挟んで横にいた藤・・・冬樹には聞こえたらしい。
「美紀って昔から単純で・・・あれだけは変わんないんだよな」
「あぁ、そういえば兄弟だっけ」
「『あぁ』って・・・そんな印象なかった?俺らが兄弟だって事」
「印象ないかって言われても・・・なんとなく解ってたし、言い当てたの私だし」
私は美紀に向けていた視線を七海に変えて言った。
「それに、もう私の中で溶け込んじゃってるかなぁ」
「なにが?」
同じように冬樹も美紀たちに向けていた視線を私に変えてから訊いてきた。
「あんた達が兄弟だって事。っていうかいい加減終わらないの?あの言い合い」
一度、視線を向けてから言う。
「あぁ。あれね」
冬樹も一度、2人に視線を向けた。
「七海が梓を名前で呼ぶまで諦めないね。絶対。諦めも悪いから」
「あぁ、・・・そうっぽい。・・・美紀ってなんか見たまんま」
私がそう言うと、冬樹があははと小さく笑う
冬樹が笑ったときの印象は3種類あった。
まるで子供のようにくしゃくしゃに笑ったのを一回だけ見たことがあった。
もう1つはまるで苦いものを口に含んだときのような苦笑い。
それに、少し暗い影を落とした笑い方だった。
でも今のはこの3つの中のどれにも当てはまらなかった。
この三人の兄弟を見ているのは、飽きなかった。
美紀は、すぐに懐くから犬。七海は全然懐かないから猫。藤森は・・・なんだろう。藤森に合う動物って・・・なんだ?
「なに考えてるの?」
優しい笑みで藤森が私に問いかけた。
「うわっ!」
「なに?」
「だっていきなり藤森が顔出すんだもん・・・びっくり・・・」
「冬樹」
「あ・・・」
私でも気づかずに、いつのまにか藤森と呼んでいたことに、気付いた。
posted by 清水 まこと at 22:25| Comment(0) | 消えない記憶 第二章 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年12月01日

消えない記憶 第二章―03

「いいかげん、このパターン飽きたんだけど」
「俺だって飽きたよ」
「じゃあ、やめなさいよ。盗み聞き」
「気になんだからしょうがないだろ」
「やめない理由になってない」
「なってるよ十分」
「気になるって何が気になるの。盗み聞きしてまで聞きたいこと?」
私が口を開いたらまた、西村が口を開く。
このパターンもいいかげんやめたい。まるでコントみたいだ。
初めから作られた、ただの猿芝居。のように思えて仕方なかった。
―気になるって何が気になるの。盗み聞きしてまで聞きたいこと?
その質問をしてから、西村は黙ってしまった。
まぁいいや。そう思ってずれていた話を元に戻す。
「で、聞いてたんなら話は早いよね。ねぇ、名前で呼ばれたいって言ったの?」
「言ってるわけねぇだろ!」
西村が力いっぱい否定した。
「理解ってるよ、怒鳴んないで」
「ちぇ」
美紀が少しふてくされる。
「何でそんなに名前で呼ばせたいの」
「別にぃ?ただなんとなく、冬樹か七海かとくっ付いてくれれば梓がお姉さんになるなぁ・・・と思っただけ」
微妙な空気が流れた。
何を言い出すの、そう思った。いきなりこういうこと言わないでほしい。ややこしくなる。
「なに言ってんの?別に親戚になる必要ないでしょ?ねぇ」
そう言って2人を振り返ると、まだ2人は微妙な空気の中にいた。
「ほらあ!やっぱり2人だって名前で呼ばれたいんだよ!」
2人の様子を見て、美紀が勝ち誇った。
だから、どうしてその話に戻るの
「俺は呼ばれたくない!」
「どうして!?いいじゃん別に!」
西村と美紀が言い合いを始めた。
2人ともすっかり授業中だということを忘れているようだ。
「俺は」
藤森が私に向かって話し出す。2人はそんな事には気付いてもいないようだ。
「どっちでもいいけど・・・でも、美紀って一回言い出すと聞かないからたぶん伊吹さんが行動に移すまでずっと言い続けると思うよ」
苦笑いをしながら藤森が言った。
「でも・・・」
「でも?」
「私の今の立場知ってるでしょ?名前なんかで呼んだりしたら2人とも巻き込んじゃう。美紀もだけど・・・美紀ったら、もうクラスで言い切っちゃったし。あれはもう言い逃れできないから。悪いとは思うけど」
「悪いなんて思う必要ないんじゃない?」
え?―と顔を上げると、藤森は美紀を見ていた。
「あいつ、本能で生きてるみたいなもんだし、美紀がそう言い切ったなら」
藤森が私の方に振り返る。
「悪いなんて思う必要ないよ。もちろん俺も。それに女子じゃないんだ。そんなこととやかく言う奴はいないよ。少なくとも俺のダチには」
posted by 清水 まこと at 16:04| Comment(0) | 消えない記憶 第二章 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年11月30日

消えない記憶 第二章―02

「ねぇ、よかったの?」
「なにが?」
私の質問に対して、彼女はいかにも彼女らしい答えを返した。
「『なにが?』ってあんなこと言っちゃって・・・」
「あぁ」
あぁ、って・・・
「大丈夫だよ。元々そんなに仲良くなかったし、私人の悪口とかに付き合うの嫌いだから」
「いや、そうじゃなくて・・・これから色々・・・されない?」
「イジメとか?」
私が避けた言葉をいともたやすく彼女は言葉にした。
「大丈夫だよお。私そんなに弱くないし、里奈たちにそんな度胸も根性もないから」
そんなはっきり・・・そう思ったが、口には出さなかった。
「それよりさ、教室で言ってたことだけど」
そう、私達は今また授業をサボって屋上に来ていた。
前と同じようにフェンスに手をかけて景色を眺めている姿勢だった。
「計画ってどうやって立てるの?」
そう美紀は私に質問したけど、私にそんな質問は答えられない。
そう答えると彼女は「どうして?」と聞き返した。
「だって私、計画なんて立てたことないもの。テストの時はざっと範囲を復讐するだけだったし、特別テスト勉強なんてしなかったから・・・そういうのだったら藤森のほうがいいんじゃない?」
「なんで冬樹?」
「だって西村には聞いても意味なさそうでしょ?」
「まぁ・・・確かに」
美紀はその後少し何かを考えるしぐさをしてから口を開いた。
「ねぇ、さっきから気になってたんだけど・・・どうして梓、冬樹や七海のこと名字で呼ぶの?私のことは名前で呼ぶのに」
「・・・」
この質問に私は困ってしまった。
どうしてと聞かれても、相手は男子だし・・・美紀は兄弟だから名前で呼べるかもしれないけど、まだ会って半年にも満たない相手、しかも男子を名前で呼び捨てにすることは私はしたことがなかった。その前にそんなに仲のいい男子を作ったことがない。
「別にいいじゃん。作ったことないって皆一番初めはそうでしょ?」
「でも私のキャラじゃないもの」
「でも、あの2人梓の家に泊まったんだよ?」
「それは美紀が一緒だったからでしょ?美紀が来なかったら絶対あの2人だけが来るなんてありえない」
そう言うと美紀はブスっと頬を膨らませる。
「ああ言えばこう言う」
「それはこっちの台詞」
「絶対冬樹も七海も名前で呼ばれたいよ!」
何故か美紀は熱心に私を説得した。
「それ2人が言ってたの?」
「・・・言ってた!」
間でバレバレなのに、それを分かっているんだろうか
「ふぅん」
そう言って振り返ってフェンスにもたれた時、ふと、影が動いた。
「じゃあ、実際に聞いてみようか」
「え?」
「ねぇ、あんたたちって名前で呼ばれたいの?」
屋上へと続く階段から、2人が現れた。
posted by 清水 まこと at 20:35| Comment(0) | 消えない記憶 第二章 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年11月20日

消えない記憶 第二章―01

「死んだんだって」
「え?両親?」
「そう、この前の休みに」
校内を歩いているだけでそんな噂が聞こえてきた。
「でもさ?本当に死んでたらこんなに早く学校でてこないでしょ」
「あんた何言ってんの?親が危篤状態でも学校来るやつだよ?」
だって、「親が危篤状態でも」家にいたって親が起きてくれるわけじゃないでしょう?
心の中で小さな反発をしながら教室に向かう。
ガラッという音をたてながら教室の扉が開いた
シン・・・という静寂が教室を包み込んだ
少し驚いた私の後ろから、いきなりドンっと突き飛ばされる。
「あ・ず・さ!おはよ。なにしてんの?」
「ううん。別に」
普通に接してくれる人がいる安堵感を初めて知った気がした。
「ふぅん?それよりさ、来週からテストじゃん?んで予定とか立てちゃいたいんだけど、予定なんて立てたことないから分かんないんだよねぇ・・・教えてくんない?」
「ねえ!ちょっと・・・美紀!」
美紀と仲のいい、女子グループが私をチラチラと見ながら美紀を呼んだ。
「なあに?」
「ちょっといい?」
手まねきをした子たちの方に、美紀が近寄って行った。
そのうちに私は席について用意をする。
「美紀・・・あんた知らないの?」
あの人たちの声が聞こえる
「なにを?」
「だから、あの人・・・伊吹さんの両親とか」
「知ってるけど、それが?」
「ちょっと洋子、そんな遠まわしじゃ美紀は分かんないよ。はっきり言わなきゃ」
「なにを?」
「付き合うのやめたら?」
本当にはっきり彼女は言った。
「ちょっと、里奈。やめなよ」
洋子というこが止めに入るが、そんなこと気にもしない。
「でも、私もそう思う・・・」
もう一人の子が口をはさんだ。
「親が病院にいる時に学校に来るなんてまともな子じゃないから、付き合うなって・・・お母さんに言われたもの」
「そう。でも私にはあなたのお母さんみたいに優しいお母さんいないし、私噂には流されないようにしてるの」
彼女は微笑みながらそう言った。
「それに、私が誰と付き合おうとあなたたちには関係ないでしょ?」
posted by 清水 まこと at 18:04| Comment(0) | 消えない記憶 第二章 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年11月13日

出会い〔美紀・後編〕

ほんの軽口だった。
このことを七海たちに言ったのは
七海があんなに怒るなんて…
そう思っても、もう後の祭り。
後悔しながらバイト先に急いだ
「じゃあ、後でね」
そう言って更衣室に入る
「えっと…?私のロッカーは…」
一番奥から3つ目のロッカーにすでに私の名札が貼ってあった。
開いて自分の荷物を中に入れる。
掛かっていた制服をハンガーから外したとき、更衣室の扉が開いた。
「あれ・・・伊吹さん?」
気まずい。と言っても、彼女は知らないだろうけど
「・・・?」
誰?とでも言いたげな顔だ。
「伊吹 梓さん・・・だよね?」
気まずさを隠そうととりあえず、確かめる
「あ・・・違った?」
「ううん。合ってるけど・・・」
不信感の入っている声に気づく
「あ、自己紹介が遅れてごめんなさい。私伊吹さんと同じクラスの清水美紀、今日からここでバイト始めることになったの。よろしくね」
「あ、ごめんなさい。私、まだ名簿とか貰ってなくて・・・」
「あぁ、いいよ。全然。まだ一週間しか経ってないし伊吹さんなんか忙しそうだったしね」
ふと、七海の顔が浮かんできて、着替えに移る
私から2つ左のロッカーを彼女が開けた。
「ねぇねぇ、伊吹さんはいつからここでバイトしてるの?」
ロッカーのドア越しに彼女に話しかける
「一週間前から」
「じゃあ、ちょうどうちの学校に転校してきてからか・・・」
あまり、深く突っ込まない方がいいかな。
そう思ったら最後、会話が見つけられなかった。
さっさと着替えを済まそうと着替えたはいいが、エプロンがうまく結べない。
手間取っているとふと、手から紐が離れた。
「あっ」
伊吹さんだった
すっと慣れた手つきでひもを結んだ。
「ありがとう」
噂ほど、思ったほど、冷たい人じゃない。
直感でそう思った
「あのね」
彼女のあとを追いながら話を続ける。
「私、友達と3人でここのバイト応募したら、運がいいことに3人とも受かってね。それで、後の2人ももう着替え終わって待ってると思うんだけど・・・」
そう言いながら彼女がstaff roomの扉を開いた。
「あ、冬樹!七海!」
開けると二人が話しているのが見えた
「え・・・伊吹・・・梓?」
七海が呟いた。

これから、長い付き合いになることも知らずに。
ただ私は喜んでいた。
よろしくね。梓。
                                          出会い〔美紀〕・完
posted by 清水 まこと at 17:09| Comment(0) | 消えない記憶 番外編 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

出会い〔美紀・前編〕

今日から、新しいバイトが始まることになっていた。
「あ、ごめん。私明日英語あたるの忘れてた…ノート取ってくる」
そう言って七海と冬樹と別れた。
教室からノートと、ついでに教科書を持って校舎をでる
「やっばい、バイトの時間遅れちゃう!近道しよ!」
そう思って、校舎裏から出ようと思ったら、2人の人影を見つけた。
「好きなんだ」
うわ、告白現場かよ。
嫌だな、と思う私の気持ちより好奇心が勝っている私が覗き込む。
「付き合ってくれないか」
こっちに背を向けて立ってる男の子…
あれ、1組の黒田じゃん。
七海と仲が良いから、よく知ってる。
結構モテるのに…告白かぁ。相手は誰?
そう思って相手の顔を覗き込むと転校してきた伊吹 梓。
すっごい美人だけど、あまり人と付き合おうとしないことから冷酷美女とか呼んでる人もいる。
「あの・・・」
伊吹さんが気まずそうに切り出したとき、
あ、断る。
そう思った時、黒田が口を開いた。
「まった!」
と遮る。
「返事は、また今度にしてくれないかな。だって俺のこと知らないだろ?断るなら俺のことよく知ってから断ってくれないかな・・・?」
黒田がそんなことを言うのを初めて聞いた。
どうするのかと伊吹さんを見てみると困った顔をしながら、でも、瞳の奥はなんだか、冷たかった。
「・・・ごめんなさい。私、たぶんあなたのことよく知っても好きにはならないと思う。それに・・・私にあなたのことを私がよく知らないって言うなら、あなただって私のことよく知らないでしょ?」

そっと裏門から出て、七海たちのいるところに急ぐ。
「おい!遅っせえぞ!」
待ち合わせの場所に着くと開口一番そう言った
「ごめぇん。でもこれでも急いで来たんだよぉ…ちょっと立ち聞きしてたけど…」
「立ち聞き?なんの?」
冬樹が不思議そうに聞いた
posted by 清水 まこと at 16:24| Comment(0) | 消えない記憶 番外編 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年11月12日

消えない記憶―50

もうすぐ、休みが明ける


美紀たち3人はこの家に来た頃よりずっと出来るようになっていた。
始めにやったをもう一度やると40点近く上がった。
「うっわすっごい私が社会で76点!」
「でもそれ、中二の問題だよん」
「もお、あきちゃんったらあ…」
テストを喜んでいる美紀に昌が水を差した。
「でも、ま。明日休み明けるし、今日はここまでにしとこ」
「ええ!?ホント!?よっしゃあ!お終い!!」
そう言って昌が教科書やノートを放り出して床に寝転がる。
「はい、片づけてねぇ」
もう片付け終わった昌が自分の勉強を持って2階に片づけに行った。
「なんか最近・・・あきちゃん私に冷たくない?」
起き上がりながら美紀が呟いた。
「心を許してきたってことだよ。昌って昔からどうでもいい人には当たり障りなくしてるから」
「ふぅん?変なの」
美紀が勉強道具を片づけ始める。
「なにが?」
「だってどうでもいい人はどうでもよくない?」
確かにその意見も分かる。
「でもさ、どうでもいいからこそ、味方につけとくといい時とかあるよ?生徒会の選挙とかだとそういう人は快くサインしてくれるし。本性バレにくいでしょ?」
美紀が微妙な、なんとも言えない顔をする。
「でも、気を許してくれてるんだろ?」
西村が言った。
「うん。たぶんね」
「なら、いいや」
そう言って美紀がノート類を机の上にまとめた。
「あ、それ私持ってくから置いといて」
キッチンから呼びかけた。
「ねぇ…さっきから気になってたんだけど、今度はなに作ってるの?」
美紀が不思議そうな顔をした。
「明日のしこみ。昌がランチ頼み忘れたって言ってたから」
「あれ?でも伊吹さんっていつもお弁当だったよね?」
藤森が思い出すように言った。
「昌って結構食べるから。ランチのほうが量が多くていいでしょ?私もつくる手間いらないし」
しこみを終えて、キッチンから出る。
「じゃ、上持ってくね」
美紀が積んだノートの山を持って、2階に上がる途中昌とすれ違った。
「手伝おうか?」
「んん。大丈夫」
昌がリビングに入って行った。
2階に上がって持ってきたものをすべて片づけた。

明日から、学校が始まる。
たぶんもう私の両親が亡くなったことは知れ渡っているだろう。
少し、気が重い。
でも明日からどうなるのか、少し期待もある。

そんな気持ちで
窓を通してみた空は、とても澄んでいた。

                                 消えない記憶 第二章につづく
posted by 清水 まこと at 20:54| Comment(0) | 消えない記憶 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年11月09日

きえない記憶―49

自然すぎて不自然なくらい、自然だった。
私が藤森や西村に伝えた直後は少し空気が重かったものの、今は昨日となんら変わりない・・・家だった。
「なんか・・・変じゃない?」
昌が食べ終わったサンドウィッチのお皿をキッチンで洗い物をしている私のところに持って来た時に、そう言った。おそらく、昌も私と同じことを感じたんだろう。
「・・・でもさ、考えてみれば美紀たちって施設育ちでしょ?親を亡くした子たちとか、それなりに会ってるんじゃない?だから、そのことにはなるべく触れないようにとか」
「・・・・・・かなぁ」
ほんの少し納得したような、全く納得してないような、微妙な感じで昌はキッチンを出て行った。
向こうのリビングでは、今は藤森が先生役で数学の時間だ。美紀が一生懸命『証明』の文章を覚えている。
「仮定・根拠・式。仮定・根拠・式。仮定・根拠・式。で、最後に結論」
皿洗いが終わったから私もリビングに行くとずっとこの言葉を呪いみたいに繰り返していた。
「あれ?終わったの?」
さっきまで、自分自身も問題集を解いていた藤森がふと、顔をあげた。
「うん。あ・・・私も自分の問題集持ってくるね」
そう言って、また私はリビングを出た。
出てすぐに、玄関が目に入った。
なぜか今更になって、思い出す・・・。本当に昔の、まだ私も、昌も小さい頃のことを。
そういえば、海に・・・泳ぎに出かけて、昌が溺れちゃってお父さんと二人で必死になって助けたっけ。しかも後で昌に聞いたら溺れてたんじゃなくて泳いでたらしいし。言いだしっぺは早とちりのお母さんだったけなぁ。この年に、山にも行ったっけ。明と雲を取るんだ!!って張り切ってビニール袋つかんで取りに行ったら、曇って取れないんだってことを知って、2人で大泣きして2人を困らせたり・・・
今更になって、こんなことを思い出す。
どうして、壊れてしまったんだろう。
どうして、両親の不仲が始まったんだろう。
わかってる。父親のリストラからだ。
わかってる。わかってるはずなのに、理解ってない。
そんな私が・・・ここにいる。
感傷に浸ってたら、後ろから声をかけられた。
「なんだ・・・昌か」
「あんまり浸りすぎてると、嫌なこと思い出すよ」
昌は、覚えているんだろうか
「大丈夫よ。どうしたの?」
「トイレ」
「そ。じゃ私上行ってるから」
「うん」
そう言って昌は私に少し不思議な微笑みを向けた。
posted by 清水 まこと at 08:42| Comment(0) | 消えない記憶 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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